輻射熱でつくる室内環境
建て主様と寒い時期によく出るテーマに暖房と室内環境があります。昨日の打ち合わせの時も話題となりました。そこで本日は、昨日話題になりました輻射熱でつくる室内環境について、お話ししたいと思います。
気温が10度に満たない冬の昼間、日陰に駐車した車を触ると手がしびれるほど冷たくなります。一方、日向に置いた車体はかじかんだ手を暖めてくれます。太陽の熱は、空気を暖めずに車を直接暖めています。これが輻射(放射)の一例です。輻射を利用した冷暖房には、床暖房やオイルヒーター、薪ストーブ、ラジエータやパネルに水を循環させるシステムなどがあります。これに対して、エアコンのような高温(低温)の風を吹き出すことで室内の空気の温度を変えるしくみを対流式、湯たんぽや氷嚢のようにモノに触れて暖(冷)を採るのは伝導式といいます。「床暖房は体が触れる面から熱が伝わるから伝導式では?」と思われるかもしれません。冷暖房の方式は輻射、対流、伝導の3つに厳密に分けることはできません。どの方式にも3つの方式が混ざっています。

そもそも、私たちはどうして暑さや寒さを感じるのでしょう。そのしくみは熱の移動と考えるとわかりやすいです。地球上のすべてのものには温度があり、熱を放射しています。人体もまた大きな発熱体です。1キログラムあたりの発熱量で比べると太陽の一万倍にもなるそうです。その熱をため込まず、周囲と絶えず熱のやり取りをして発散しているから37度弱の体温を維持することができるということです。このため、周囲の温度が高すぎると熱を発散できずに暑くなります。反対に、寒さを感じるのは、周囲の温度が低すぎて体が発散する熱を奪われすぎるから。つまり、人間にとって快適なのは、熱の発散が適度に行える状態といえます。室温が18〜23度、床・壁や天井も同じくらいの温度がその状態です。
輻射式にはしっかり断熱・気密を
人が快適と感じる環境をつくるのに適しているのが、床や壁・天井を直接暖めたり冷やしたりする輻射式の冷暖房が多くなりました。真夏、断熱の悪い部屋でエアコンの設定温度を下げても、壁や床の温度はさほど下がらない。同じ気温でも、内部の表面温度が低い土蔵の中はひんやり感じます。どちらが快適か、体が知っています。また輻射式は強制的な空気対流により暖かい空気が上昇する対流式と違い、上下の温度差ができにくい。床暖房の表面温度が25度で快適と聞いても、炬燵にあたるような感覚でいると信じがたいかもしれません。もう一度、人間が大きな発熱体であることを思い出してみましょう。室内の表面温度が30度もあったら熱の発散がうまくできず、むしろ暑さを感じていまいます。人が快適に感じる室内の温度は、囲まれている壁、天井、床の温度と室温の平均で決まるといわれています。暖房であれば、熱を発する面が大きければ大きいほど、設定温度を低く抑えることができ、自然で快適な温度環境になります。外気との温度差も少なく、省エネルギーにもなります。蓄熱性能を活用すれば太陽熱や夜間冷房も利用でき、冷暖房の効率も上がります。
熱容量の大きい輻射式冷暖房は、1日の中でこまめにスイッチを入れたり切ったりするのではなく、季節を通して暖める(冷やす)のが基本になります。立ち上がり時間の問題をなくして、安定した温熱環境が持続します。
これらの長所を活かすため、断熱・気密性は欠かせません。熱損出の大きな窓の対策は特に重要です。ガラス面の温度が低ければ、そこから体の熱を奪われて寒く感じてしまいます。これまでの冷暖房設備は、暑さや寒さを感じる度に気温と湿度、風のコントロールによって局所的な対処をする考え方が多かった。これに対して、輻射式は室内の空気温度をあまり変化させずに快適を保つしくみの一つといえます。
快適に暮らしていただくために、冷暖房について、何を採用していただくか、それは省エネルギー、ゼロエネルギーに寄与するのか、などをよく検証して、ご提案しております。